惑星の影の長さ

2009年の7月21日に、皆既日食が起こりました。奄美大島などから(雲越しに)見ることができたようですね。私は、外は土砂降りだというのに500人も集まった日食イベントの参加者の顔しか見ませんでしたが。

図1 皆既日食と金環日食

図1 皆既日食と金環日食


日本から見られる次の日食は2012年の金環日食、水星による金環食(太陽面通過)は2032年の11月、金星による金環食(太陽面通過)は2012年に起こります。
2012年の金環食は、日本の太平洋側をずーっとなめて行きます。東京、名古屋、大阪といった人口密集地でも観測ができるでしょう。しかも、金環食の2週間後には金星の太陽面通過があるという、日食のビッグイヤーです。

さて、日食は太陽と月が重なると起こります。ぴったり重なった日食には、金環食、皆既食の2種類があり(図1) 皆既食は、太陽が全部隠されるもの、金環食は、月の周りに太陽がはみ出して、金でできた指輪のように見えるものです。この2つの現象は、月の大きさが変化するから起こる、というのもご存知のとおりです。

月の大きさの変化とは、つまりは月と地球との距離が変化している、ということです。月の大きさの変化は、目で見ただけではなかなか分かりませんが、写真を撮るとすぐに分かるほど違います。もし、月の直径が写真で見て分かるほど大きくなったり小さくなったりしていたら、それはそれで大変です(笑)

日食と月の距離

月の軌道は結構な楕円で、地球に近づくと35万km、離れると40万kmくらいも違います。そのために、月の大きさが大きくなったり小さくなったりするわけですが、大きさとしては、角度で29秒から34秒くらいの違いがあります。実に10%以上も大きさが変わるのです。
人間でいえば、身長170cmの人が、162cmになったり、178cmになったりするのと同じくらい。人間なら、すぐに分かりますが、月だと気がつかないのは、比較する相手がいないからでしょう。たまに、比較する相手が近づきます。太陽ですね。

図2 影の長さ

図2 影の長さ

でも、月の大きさの変化だけでは、皆既と金環、二つの日食がある説明にはなりません。月が地球にもっと近ければ皆既日食しか起こりませんし、もっと離れていれば、金環日食しか起こりません。極端な話、2012年にある、金星の太陽面通過も、金星による金環日食です。大きさがあまりに違いすぎますが。

これはまったくの偶然ですが、月の影の長さ、というのは、地球と月との距離とほとんど同じです。計算してみると、だいたい37万kmくらい。地球と月の平均距離はだいたい38万kmくらいで、地球の半径6400kmを差し引くと、宇宙の距離の感覚ではもうまったく同じと言ってもいいくらいです。
月の影の長さよりも近くなったり遠くなったりしながら、月は地球の周りを回ります。太陽、月、地球と一直線に並ぶたび、皆既日食、金環日食と、いろいろな日食を楽しむことができるわけです。

図3 本影と半影

図3 本影と半影

今、月の影、と簡単に使っていますが、ここで言う月の影とは「本影」を指します。本影というのは、光源が別のものに完全に隠され、見えない部分です。それに対し、一部が隠される部分のことを「半影」といいます。日食で言えば、部分日食を見ることができる場所が、半影の中、というわけです。
もし、太陽の大きさが限りなく小さな点であれば、本影しかありませんが、太陽は見てわかるほど円なので、半影ができます。

本影は、太陽を全部隠せる場所なので、太陽と太陽を隠すものの大きさが同じに見えるところまで続き、それよりも先は、太陽の一部は隠せても、離れれば離れるほど周りがはみ出してしまいます。中央部分が隠された部分食、いわゆる金環、になるわけです。

地球の影の長さは?

月の影は37万Kmくらいと書きました。ところで、日食の反対で、地球の影に月が入る、月食という現象もあります。2006年9月8日未明、ほんの少し欠ける、部分月食があったのですが、残念ながら千葉からは天気が悪くて見ることができませんでした。

その月食、地球の影に月が入って欠けて見えるわけですから、地球の影は月の軌道よりも遠くまで伸びていることになります。月は地球の4分の1の大きさで、それが37万kmの影を持つのだから、地球の影はだいたい150万kmくらいまでは伸びている、という計算になりますね。

そこで思ったのが、他の惑星の影はどこまで伸びているのだろう、どの惑星が一番長い影を持っているんだろう、ということです。
誰か計算していないかとネットで検索してみましたが、惑星の影を計算するようなヒマな人はいないようです。アシモフが生きていれば、科学エッセイの中で計算したかもしれませんが。別に、アシモフがヒマ人だ、と、言っているわけではありません。もう20年になりますね・・・という話はさておき、地球の影、ざっと計算すると、約140万kmとなりました。だいたい予想通りです。

他の惑星たちの影の長さは?

惑星の作る影は、2つの値によって決まります。太陽と惑星の距離と、惑星の大きさです。本影は惑星によって太陽が隠れる部分ですから、太陽に近いと当然太陽が大きく見え、惑星によって全部隠せる距離は短くなります。
もう一つ、惑星の大きさはいいでしょう。惑星が大きいほうが太陽を隠せる距離が長くなりそうです。

で、各惑星の影の長さを求めたのが以下の表です。さて、誰が一番長い影を持っているのでしょうか。

表1 各天体の影の長さ
天体名 影の長さ
37万8000km
水星 20万9000km
金星 94万2000km
地球 139万5000km
火星 120万3000km
木星 9239万2000km
土星 1億2980万8000km
天王星 1億1454万0000km
海王星 1億6586万1000km
冥王星 807万6000km

皆さんの予想は当たりましたか? わたしの予想では、土星あたりが一番かな? と思っていたのですが、本影の長さが一番長いのは海王星、という計算結果が出ました。その距離1億6千万km以上! 地球と太陽との距離よりも長いのです。続いて、土星、天王星と続き、太陽系で一番大きな木星は、太陽に近いのが災いして、残念ながら影の長さは4位となりました。それでも9千万km、太陽と金星との距離くらいもあります。

火星よりも太陽に近い4つの惑星は、それらよりもだいたい2桁小さな影の長さです。もともと大きさが小さいのと、太陽に近い相乗効果で、影の長さが短くなっています。その中で一番長いのは地球です。地球型惑星、の、代表の地位を守りました(?) 次が火星。大きさは金星の半分しかありませんが、距離が2.5倍あるため、影も長くなりました。一番短いのは水星です。惑星の中で一番小さいですし、太陽に一番近いので、なんと月よりも影の長さが短くなっています。

さて、惑星の中で一番小さい、といえば、準惑星になってしまった冥王星です。参考として計算結果を載せておきました。

冥王星は月よりも小さな天体ですが、太陽から離れたところを回っているので、影の距離はなんと800万km、固体でできた惑星の中では一番大きい、という結果が出ました。ほらみろ! 惑星の仲間に戻せ! と、アメリカの科学者さんたちが勢いづきそうですが、これはあくまでも太陽から遠い、ということから求まる結果です。もし、冥王星の距離に地球を持っていけば、木星の半分、4千万km以上の影を持つことになり、逆に、いかに冥王星が小さいか、ということがこのことからもわかります。

惑星の影と太陽系外惑星

ところで、本影の長さを越えてしまった後、半影はどこまで伸びているのでしょうか。観測できるかどうか、ということは別にして、答えは、どこまでも伸びている、です。

たとえば、先ほど「水星や金星の太陽面通過は金環食」と書きました。水星も金星も、本影は地球に届くことはありませんが、肉眼では見えなくとも望遠鏡を使えば、水星や金星が太陽の前を通っていくのが分かります。

この、恒星の前を惑星が通過していく、いわば金環食を利用して、太陽系外の惑星を探すのが「トランジット法」と呼ばれる手法です。恒星が、その周りを回る惑星に隠され、明るさが少し暗くなります。規則正しく(惑星が恒星の周りを回っていれば、規則ただしいですね)暗くなることで、惑星が回っていることが分かるわけです。

何光年も離れた惑星の存在すら分かってしまう、やはり、「影」の影響力は大きいようですね。