サロス周期とメトン周期

2010年は、月食が3回も見られた年でした1 。千葉では天気が悪く、最初のものしか見ることができませんでしたが。

そう言われても、へーそうですか、という反応が普通の人だと思いますが、実は、結構珍しいことなのです。次に月食が3回見られるのは、2094年までありません、実に84年後! と書いても、だから何? と言われそうですね。

では、ちょっとアブナイ系の話をすると、2010年に起きた3回の月食の日付は、1月1日、6月26日、12月21日と、シンメトリカルになっているのです。元日に月食、しかも日付がシンメトリカル、昔なら「不吉」とか言われそうな偶然です。
全部が皆既月食であれば、いよいよアヤシイ話になってきますが、2010年に見られた皆既月食は1回。残りの2回は部分月食です。残念。

月食の秘密

アブナイ系の話はこれくらいにして、まじめな話に戻します。偶然と一緒にしてはいけませんが、月食、そして日食には、ちょっとミステリーっぽい数字があります。今回は、それについて調べてみましょう。

まずは、下の表をご覧ください。

1950年から120年間の東京で見られる皆既月食数
期間 回数 期間 回数 期間 回数 期間 回数 期間 回数 期間 回数
1950年代 4回 1960年台 5回 1970年台 6回 1980年台 7回 1990年台 4回 2000年台 5回
2010年台 7回 2020年台 7回 2030年台 6回 2040年台 6回 2050年台 4回 2060年台 6回

東京で見られる月食の回数を、10年ごとにまとめたものです。月食の見られる回数は、意外と増減していることが分かります。多くて7回、少なくて4回。2010年代の皆既月食は、7回見られるようですね。そのうちの1回が2010年に起きたもの。

続いてこの表。

1980年から2034年までの月食一覧
日時 離角 種類 日時 離角 種類 日時 離角 種類
1981/01/20 16:50 0゚59′ 部分 1999/02/01 01:17 0゚59′ 部分 2017/02/11 09:43 0゚60′ 部分
1981/07/17 13:47 0゚39′ 部分 1999/07/28 20:33 0゚44′ 部分 2017/08/08 03:20 0゚48′ 部分
1982/01/10 04:56 0゚18′ 皆既 2000/01/21 13:43 0゚18′ 皆既 2018/01/31 22:29 0゚18′ 皆既
1982/07/06 16:31 0゚03′ 皆既 2000/07/16 22:56 0゚02′ 皆既 2018/07/28 05:22 0゚06′ 皆既
1982/12/30 20:29 0゚23′ 皆既 2001/01/10 05:20 0゚23′ 皆既 2019/01/21 14:12 0゚23′ 皆既
1983/06/25 17:23 0゚45′ 部分 2001/07/05 23:55 0゚40′ 部分 2019/07/17 06:31 0゚35′ 部分
1984/11/09 02:55 0゚60′ 部分 2002/11/20 10:46 1゚01′ なし 2020/11/30 18:42 1゚02′ なし
1985/05/05 04:56 0゚21′ 皆既 2003/05/16 12:40 0゚25′ 皆既 2021/05/26 20:18 0゚29′ 皆既
1985/10/29 02:42 0゚22′ 皆既 2003/11/09 10:18 0゚23′ 皆既 2021/11/19 18:02 0゚25′ 皆既
1986/04/24 21:42 0゚23′ 皆既 2004/05/05 05:30 0゚19′ 皆既 2022/05/16 13:11 0゚15′ 皆既
1986/10/18 04:18 0゚18′ 皆既 2004/10/28 12:04 0゚16′ 皆既 2022/11/08 19:59 0゚14′ 皆既
1986/10/07 13:01 1゚00′ 部分 2005/10/17 21:03 0゚58′ 部分 2023/10/29 05:13 0゚56′ 部分
1988/03/04 01:12 0゚54′ 部分 2006/03/15 08:47 0゚55′ 部分 2023/10/29 05:13 0゚56′ 部分
1988/08/27 20:04 0゚53′ 部分 2006/09/08 03:51 0゚57′ 部分 2024/09/08 11:43 1゚00′ 部分
1989/02/21 00:35 0゚16′ 皆既 2007/03/04 08:20 0゚17′ 皆既 2025/03/14 15:58 0゚19′ 皆既
1989/08/17 12:07 0゚09′ 皆既 2007/08/28 19:37 0゚13′ 皆既 2025/09/08 03:11 0゚16′ 皆既
1990/02/10 04:10 0゚24′ 皆既 2008/02/21 12:25 0゚23′ 皆既 2026/03/03 20:33 0゚22′ 皆既
1990/08/06 23:11 0゚36′ 部分 2008/08/17 06:09 0゚32′ 部分 2026/08/28 13:12 0゚28′ 部分
1991/12/21 19:32 0゚59′ 部分 2010/01/01 04:21 0゚60′ 部分 2028/01/12 13:12 0゚60′ 部分
1992/06/15 13:56 0゚35′ 部分 2010/06/26 20:37 0゚39′ 部分 2028/07/07 03:18 0゚44′ 部分
1992/12/10 08:43 0゚18′ 皆既 2010/12/21 17:15 0゚19′ 皆既 2029/01/01 1:50 0゚19′ 皆既
1993/06/04 21:59 0゚10′ 皆既 2011/06/16 05:11 0゚05′ 皆既 2029/06/26 12:21 0゚01′ 皆既
1993/11/29 15:25 0゚22′ 皆既 2011/12/10 23:30 0゚21′ 皆既 2029/12/21 07:40 0゚21′ 皆既
1994/05/25 12:29 0゚55′ 部分 2012/06/04 20:02 0゚50′ 部分 2030/06/16 03:32 0゚46′ 部分
1995/04/15 21:17 0゚58′ 部分 2013/04/26 05:07 1゚01′ 部分 2031/05/07 12:50 1゚04′ なし
1996/04/04 09:09 0゚14′ 皆既 2014/04/15 16:45 0゚17′ 皆既 2032/04/26 00:12 0゚20′ 皆既
1996/09/27 11:54 0゚21′ 皆既 2014/10/08 19:54 0゚23′ 皆既 2032/10/19 04:01 0゚25′ 皆既
1997/03/24 13:39 0゚27′ 皆既 2015/04/04 20:59 0゚24′ 皆既 2033/04/15 04:11 0゚21′ 皆既
1997/09/17 03:46 0゚23′ 皆既 2015/09/28 11:46 0゚20′ 皆既 2033/10/08 19:54 0゚18′ 皆既
凡例
地平線下は   月没帯食は   月出帯食は  

この表は、1980年から2033年までに起こる月食をまとめたものです。皆既月食、部分月食と問わず、日本から見えないものも含まれています。白い枠のものが東京で最初から最後まで見られるもの、灰色の枠のものが見えません。他の色付きは凡例を見てください。

さて、2010年はと見ると、1月1日部分、6月26日部分、12月21日皆既、ただしピンク色枠なので、月出帯食(月が欠けたまま昇ってくる月食)です。確かに3回見られますね。

でも、この表見づらいよ

ところで、この表、なんだか変な風に組んであります。90年代、00年代とか区切っている割にはその途中で改列しているし、「なし」という、月食が起こらない日も入っているし、しかも2033年なんて中途半端なところで終わっているし。

実はこの表、ある法則に基づいて作ってあります。ヒントは横1列の日付です。たとえば、

月食一覧 一部抜粋
日時 離角 種類 日時 離角 種類 日時 離角 種類
1985/10/29 02:42 0゚22′ 皆既 2003/11/09 10:18 0゚23′ 皆既 2021/11/19 18:02 0゚25′ 皆既
1986/04/24 21:42 0゚23′ 皆既 2004/05/05 05:30 0゚19′ 皆既 2022/05/16 13:11 0゚15′ 皆既
1986/10/18 04:18 0゚18′ 皆既 2004/10/28 12:04 0゚16′ 皆既 2022/11/08 19:59 0゚14′ 皆既

隣同士の間隔が、18年と10日前後と8時間くらいずれています。ほかの列もすべてそうなっているのがわかりますか?

また、「離角」欄にも注目です。ここでいう離角は、地球の影の中心と月との距離のことです。離角を横1列でみると、これもほぼ同じくらいの値になっています。

月食は、月が地球の影に入って起こる現象ですから、地球の影と月の離角で、部分食、皆既食、あるいは月食は起きないかが決まります。地球の影の直径は約2°、角度の分で120’くらい、月の直径は約30’程度です。ですから、離角が60’よりも小さいと部分月食、さらに、30’よりも小さいところはほぼ皆既食になります。表内の「なし」部分は、離角が60’よりもほんの少し大きく、月食とならないのがわかります。

18年ごとの同じような時期に、同じ位の離角に地球の影と月が接近する---つまりは、同じような欠け具合の月食が起きる、というのは、なんだか面白い規則性です。この表は、それがわかるように表組みをしました。それで、中途半端に改列してしまっているわけですが、別の視点で見てみると、きれいにまとまっていると思いませんか?

サロス周期

図1 1986年と2004年の月食比較

図1 1986年と2004年の月食比較

この周期、実は古代バビロニアの時代から知られている、サロス周期と呼ばれるものです。

太陽と月は、6585.3日、18年と9~11日と8時間で、ほぼ同じ場所に来ることが知られています。日数があいまいなのに時間が8時間と決まっているのは、日数は18年間に何回うるう年が入るかで変わるためです。

この周期によれば、日食や月食に関係なく、太陽と月は18年と10日前後で同じような位置に来ますが、特に、とある食のあった日から18年と10日前後には、また同じようなかけ方をする食がある、ということになります。

上の表は、サロス周期で作ったものです。ためしに2004年5月5日の月食に注目すると、その1サロス前の月食は隣の枠の日付、1986年4月24日に起こったことがすぐに分かります。この日の月食も、やっぱり月の北西側から欠け始める皆既月食です。
1サロス後の月食も同様の欠け方をしていきます。ただし、2022年の月食は、日本では昼間に起こり、見ることができません。

太陽と月は、18年と10日前後で地球から見て同じ場所に戻ってきます。戻ってきますが、サロス周期には、「.3」という端数がついています。これは日付の端数ですから、サロス周期が1回りするには、1日の3分の1、つまり8時間程度余分な時間が必要なわけです。

そこで、2004年5月5日には早朝に起こる月食が、1サロス前の1986年には宵に、1サロス後の2022年には昼間に起こることになります。

8時間を3倍すれば24時間。3サロス周期、54年と31日くらいで、同じ場所で同じ時刻に同じような食が見られる、ということになります。
もちろん、きっちり8時間というわけではありませんし、季節も1ヶ月ほど進み、太陽の天球上の位置も変わっていますし、地球と太陽が月を奪い合っているため(大岡越前によくある、生みの親と育ての親に片腕づつ持たれて引っ張られている 子供のように(^^;)軌道自体が微妙に変化しているので、だんだんとずれてはいくのですが(それが、離角の微妙な変化に表れています)目安としては十分な精度だと思います。

ちなみに、2004年5月5日の3サロス周期後の月食は、2058年6月7日に起こります。やっぱり、明け方の西の空で起こる月食となります。

メトン周期

このページでは、日食・月食がサロス周期にのっとり繰り返すことを調べました。
ところで、太陽と月関係の周期ではもうひとつ、メトン周期というのもあります。

月が、新月からまた新月になる時間は、ほぼ29.5日です。太陽が空の同じ場所に戻ってくるまでの時間は、ほぼ365日ですから、月の満ち欠けを単位とした1年は、365÷29.5=12と余り11で、12ヶ月と約11日と表されます。
毎年11日の余りを19倍すると、11×19=209、これを29.5で割ると、約7。毎年の余りも、19年経つとほとんど7ヶ月になります

つまり、12回、月の満ち欠けが起きた期間を1年として、19年の間に7回うるう月を入れれば、月の満ち欠けを月の単位とする、季節の変化とそう変わらない暦ができることになります。

紀元前433年にギリシャの天文学者メトンによって発見された、この周期がメトン周期です。

1年を12ヶ月とし、19年間に7回うるう月を入れる、というこのメトン周期は、いわゆる旧暦・・・太陰太陽暦にほかなりません。

今、私たちが使っている暦は、太陽暦、太陽の動きを基にした暦ですが、その今でも、毎日夜空を見上げて一番目につく変化は、やっぱり月の満ち欠けでしょう。
月の満ち欠けを基にした暦を使うというのはとても自然なことに思えます。実際、ほとんどの古代文明で使われています。
例外がエジプト文明ですが、ここは、ご存知のナイル川の氾濫の周期をおおいぬ座シリウスを使って調べていましたから、もともとが太陽暦です。

農耕が始まったころから、暦の作成は非常に重要な仕事になったことでしょう。なにしろ、うまく季節に合わせて作物を作らなければ、飢えてしまいます。米が不作だからって、外米を緊急輸入するわけにもいきませんし。むしろ、昔のほうが重要だったかもしれません。1日1日はっきりと変化のわかる月の満ち欠けで、1年を表すことができたら、とても便利で、しかも確実です。

古代の人々はきっと、一番分かりやすい目印である月の満ち欠けと、太陽高度などから求めていた1年とを、なんとしても結び付けたかったのだろうと思います。

今のように、望遠鏡もコンピュータもなく、観測を記録することも難しい、数学の知識すら満足でない世界で、メトン周期やサロス周期を見つけ、今とほとんど変わらない暦を作ることができた、ということはとても素晴らしいことですね。

  1. この記事は、旧・山上企画にて2004年公開、2010年に加筆訂正したものです。ですので、利用している日時が若干古くなっています。