身近な月

まずは身近な月の現象説明から始めましょう。

図1 月の位相図

図1 月の位相図

図1をご覧ください。天文現象解説などによくある、月の満ち欠けと、太陽・地球・月の関係図です。

真中には地球があり、その周りを月が回っています。太陽は、図の上から、地球と月を照らしていると思ってください。この図は、見たとおり地球の北極側から見ていますので、月は反時計回りに地球を公転します。地球の北極から宇宙に飛び出し太陽系を見降ろすと、左回り、反時計回りに惑星、ほとんどの小惑星や衛星は太陽、惑星の周りをまわっています。

月の形を表す言葉、満月、新月、上弦、下弦などは、分からないということはないと思います。普段の生活の中で普通に使っていますね。

けれども、天文現象カレンダーなどでは、いつを満月と呼ぶのか、厳密に決めておかなければなりません。月が見えなければ新月、丸く見えれば満月、というわけにはいきません。

きちんとするとどうなるか、表にまとめましたのでご覧ください。あわせて、月の現象を計算で求めるときの定義もまとめてみました。

月の現象名とその定義
現象名 定義 計算時の定義
見える時間帯
新月
(New Moon)
月と太陽が、同じ方向に見えるとき
(通常見えませんが、日食時は見えますね)
太陽との地心視黄径差が0時間になるとき
明け方に昇り、お昼に南中、夕方に沈む
満月
(Full Moon)
月が、太陽と反対側に見えるとき 太陽との地心視黄径差が12時間になるとき
夕方に昇り、夜半に南中、明け方に沈む
上弦
(First Quarter、
Young Moon)
新月の後、月が太陽と90度離れたとき
太陽の東側90度
太陽との地心視黄径差が6時間になるとき
お昼頃昇り、夕方に南中、夜半に沈む
下弦
(Last Quarter、
Waning Moon)
満月の後、月が太陽と90度離れたとき
太陽の西側90度
太陽との地心視黄径差が18時間になるとき
夜半に昇り、明け方に南中、お昼頃沈む

天文現象はすべて計算で求められていますが、そのためには、どういう状態になったときに現象が発生した、とするか、明確に定義しておかなければなりません。

計算時の定義で、地心視黄径、という単語が出てきましたが、これは、球の中からた座標系のひとつ、道座標系の度のことです。「黄道座標系」は、1年かけて太陽が動いていく、その経路を基準にした座標系のこと、「地心」や「視」、これらは座標系の基準をさらに明確にしている、と思ってください。もちろん、「黄道座標系」も、「地心」や「視」も含め、それぞれ厳密な定義がありますが、今回は割愛します。

一般的には、今月の新月は何日、満月は何日と言いますが、厳密にいうと、新月などの現象は上に書いた定義の状態になった瞬間をいいますから、たとえば2004年3月の新月は、21日7時41分、と細かい数字まで出てきます。もっとも、普通はそこまで気にする必要はあまりありませんね。

見頃の目安は?

では、上の表の中では、いつが一番見頃なのでしょうか? 惑星では、一番近づいた時が見頃~というよりも、一番近づかないとあまりよく見えない~なのですが、月の場合、地球との位置関係ではあまり距離は変わらないので、いつでも見頃といえば見頃です。

そうなると、普通、お月見は満月の時にしますし、やっぱり満月が見頃? と思ったりもします。確かに肉眼で月を眺めるのは、満月が一番絵になりますね。

でも、実は望遠鏡で満月を見ると、月全面が光っていますから眩しくて、よく見えません。観望会の時が満月近い時は、ムーングラスという減光フィルタを入れたりします。しかも、上の図で分かるように、太陽の光が垂直に月面を照らすので、クレーターなどの影ができずにのっぺりとしてしまい、あまり面白くありません。

望遠鏡で月を見るときはむしろ、上弦や下弦など、欠けている時のほうが、光が横から照らすので、月面のでこぼこで影ができ、立体的でとても面白く見ることができます。

月齢

続いては、月齢についてです。

月齢というのは、直前の新月の時刻からの経過時間を、1日単位、小数点1桁までで表したものです。

天文雑誌などでは、たとえば2004年3月2日の月齢は11.1でした。ところが、同じ日の新聞のこよみ欄などでは、10.8と書かれています。同じ日なのに変ですね。これは、基準にしている時刻が違っているために起こることで、当然ですがどちらも正しい月齢なのです。

新聞のこよみ欄などで使われている月齢は、正午を基準とした~直前の新月時刻から、その日の正午までの時間を使う~月齢が多いのに対し、天文現象カレンダーでは、21時基準~同様に21時までの時間を使う~月齢が多いようです。

正午と21時の時間差、9時間を1日で割った、9÷24=0.375分の違いが、月齢の違いとして表れています。このように、基準時刻で同じ日でも月齢が変わり、同じ日の月齢が違うと利用者は混乱して、クレームの電話やらメイルやらが来ますから(笑) 何時の月齢なのか、明確にしておかなければなりません。

上の例では、直前の新月は2月20日18時にあったので、3月2日の正午には、10日間と18時間が過ぎています。
この時刻の月齢は、10日間+18時間÷24時間=約10.8、同じ日の21時の月齢は、11日間+3時間÷24時間=約11.1となるわけです。

新月と月齢
時刻 新月からの経過時間 月齢 備考
2004年2月20日18時  0日 0時間  0.0 新月
2004年3月 2日12時 10日18時間 10.8 新聞などのこよみ欄
2004年3月 2日21時 11日 3時間 11.1 天文現象カレンダー

上の項で、新月の時刻を何時何分まで厳密に求める必要はあまりない、と書いておきながら、厳密に求める必要があるのが月齢です。
直前新月の時刻から数えますから、それを求める計算が2時間違うと、月齢も0.1近くずれてしまいます。
ということは、月齢が分かると、その直前の新月の時刻もだいたい分かるということにもなりますね。

また、月齢は新月時刻から求める、ということで、もうひとつ面白いことは、新月を含む日の月齢です。新月になる瞬間までは、月齢29くらいですが、新月になった瞬間、月齢0.0となるわけですね。同じ日でも月齢が非常に違っているわけです。

朔、望、上弦、下弦

さて、難しい話はさておき、月の現象名について。

「新月」「満月」「月齢」という呼び方は、「New Moon」「Full Moon」「Moon Age」と、英語名をそのまま訳したという雰囲気ですね。となると明治時代以降の呼び名で、訳者はやっぱり福沢諭吉でしょうか。

それ以前の日本語としては、新月を「朔」、満月を「望」と呼んでいたようです。「朔」は1日、という意味があるそうで、また、「望月」さん、という苗字は、「満月」さんなんですね。

月齢、という概念は、西洋ならではな気がします。というのも、西洋では、西暦が始まって以来ずっと太陽暦を使っています。
太陽暦では太陰太陽暦と違って、日付と月の満ち欠けの状態が一致しませんから、満ち欠けの状態を知るためにそれを示すものが必要になった、と考えられますね。

日本の場合、旧暦は太陰太陽暦、それをいわゆる明治の改暦で、現在の暦、太陽暦に替えました。今の私たちに月齢がなじみが深いのは、今のカレンダーを見ても月のかけ具合が分からないから、と考えることができます。

太陰太陽暦、いわゆる旧暦では、必ず新月が1日になります。というよりも、新月の日を月の始まり、1日と決めているわけです。
旧暦を使っていた頃の日本では、毎月の日付は、若干ずれることがあったにしても「月齢」でしたから、月の満ち欠けを知るのにわざわざ月齢というもの作る必要がなかった、と思うのです。

図2 上弦、下弦

図2 上弦、下弦

上弦下弦のいわれについては、いろいろな説があるようですが、ポピュラーなのは、月を弓に見たてて、沈むときの姿が、上弦では弦を上に、下弦では弦を下にしているから、というものです。

図2をご覧ください、沈むときのイメージですが、確かにそう見えますね。

けれども、この件について、私が個人的に気に入っているのは、以下の説です。

今さっき書いたように、現在の暦では、毎月1日と月の満ち欠けは全く関係ないですが、旧暦では、新月の日が必ず1日になります。なので、上弦の月は毎月7日頃、下弦の月は毎月22日頃と決まっています。

ところで、上、下というのは、上半期下半期というように、前、後、という意味にも使われますね。「弦」という言葉には「半月」という意味もあるのだそうです。

そこで、毎月7日頃の半月を、その月の「先の半月」という意味で「上弦」、22日頃の半月を、その月の「後の半月」という意味で「下弦」と呼んだ、という説、なかなか説得力があります。

こういう言葉のいわれについて、私は専門でないのでわかりませんが、この説には、日々の生活と月の満ち欠けが密接に関係していたころの名残があって、いいなあと思います。
七夕や十五夜などに感じるような、ちょっとしたロマンですね(笑)

ただ、英語の「First Quarter」「Last Quarter」というのも、意味的にはこの説と同じですね。ひょっとすると、ロマンを感じるのは勝手だけど、実はこれも英訳なんでしょうか。